漠然と、「やりたい事をこなしていきたいなぁ」と思うようになったのはインドカレーを作っている時だったかもしれない。
よく分からんスパイスを買い漁り、時間をかけて、異国の料理を作る――ここに人生の無駄が凝縮している。
そのよく分からんスパイス、せいぜい小さじ程度しか使わないのに余りはどうするのか。9割以上が瓶に余ったフェンネルシードはどうしたらいいのか。レシピサイトで「フェンネルシード 大量消費」で検索するのか。
市販品やレトルト品で十分美味しいものがあるのになぜ作るのか。無印良品の企業努力は凄まじい。あれはもうカレー屋さんだ。異論は認めない。
餅は餅屋、インドカレー専門店に食べに行けば待っているだけでプロの味が出てくるというのに。ナンの無限お代わりサービスとともに1,000円を切る価格でセットメニューが食べれるお店だってある。
そう、人生において自宅でインドカレーを作るのなんて無駄の極みである。
だからこそ、潤うのだ。人生を潤す無駄が、ここにある。
バターチキンカレーについて
今回はバターチキンカレーを作る。インドカレー入門編というべきバターチキンカレーは初めて食べるインドカレーにもピッタリ。数多のインドカレー初心者をインドカレー沼へ落とす時、お店で最初にチョイスするのは九分九厘バターチキンカレーだろう。
その豊潤な味わいとコクはまさに幸せの権化。辛さも個性的なスパイスの味わいもそこまで無く、トマトとカシューナッツの味わいで日本人でも食べやすい。
北インドと南インド
インド料理は大きく北インドと南インドに分けることが出来、バターチキンカレーは北インド料理となる。
世界7位の国土面積を持つインドは南北に長く、北端から南端までは日本列島くらいの距離がある。北インドは夏は暑く冬は寒い。南インドは年間を通して暑い。ただし夏は北インドの方が暑くなる。
北インドは中東の食文化の影響を受けており、チーズやギィ等の乳製品も用いる。ナン、チャパティ、バスマティライス等を食す。比較的こってりとした料理が多いし、肉料理もある。
南インドは東南アジアのような食文化であり、乳製品よりも似た用途としてココナッツミルクやごま油等を用いる。ベジタリアンが多く、野菜や豆をよく用いる一方、海もあるため魚料理も多い。比較的あっさりとした料理が多い。
いずれにしてもスパイスを効果的に用いて食欲を刺激するような料理が多く存在し、それが「インド料理らしさ」となっている。
インド料理を作る、となると「よく分かんないスパイスを買い揃える所から始めないと」と思ってしまう人も多い事だろう。まぁまさにその通りなんだけど。
カレーについて
インドではカレーの事をカレーと呼ばない。香辛料を使った煮込み料理は複数あり、便宜上インド人ではない我々はそれらを全部カレーと呼ぶわけだが、これは些か乱暴なカテゴライズであると言える。
つまり、インドにはカレーは無いのだ。あるのは様々なスパイス煮込みであり、元々カレーではない。
ただし、やはりカレーという表現が最も伝わりやすく、最近ではインド人もその自覚があり、国外の人に分かりやすく説明する際には敢えてカレーという呼称を用いる事もあるようだ。
本国の「バターチキンカレー」
さて、インドに於いてバターもチキンもあまり用いられない。何故か。比較的高額だからだ。
これらの材料をふんだんに用いるバターチキンカレーは、実は本国ではあまりお目に掛かれないらしい。
まずチキンやバターを使っている時点で南インドでは見られない。どちらかと言えば北インドだ。ただし、例えば北インドへ旅行して「本場のバターチキンカレーが食べたい」と思っても、願いは叶わないかもしれない。
作る
前置きはこの辺にして、バターチキンカレーを作っていく。
主役のチキンはヨーグルトとスパイスに漬け込む。その他の材料はクリーミーなペースト状にする。材料を惜しまない。以上の3点が重要だ。
材料(4人前)
鶏もも 500g
玉ねぎ 1玉
トマト 3個
バター(有塩) 50g ※本格的にするならば、ギィとバターを25gずつで
カシューナッツ 50g
生クリーム 90ml(+仕上げ用に10ml)
レッドペッパー(粉) 小さじ1
パプリカパウダー(粉) 小さじ1
★鶏もも漬け込み用
ヨーグルト 100g
レモン果汁 大さじ1
おろしにんにく 大さじ1
おろししょうが 大さじ1
カレー粉 小さじ2
カイエンペッパー(粉) 小さじ1
コリアンダー(粉) 小さじ2
塩 小さじ1
砂糖 小さじ2
☆ソース用スパイス
シナモンスティック 1本
カルダモン 3粒
クローブ 2粒
黒胡椒 4粒
作り方
①前日:鶏肉の漬け込み
まずは鶏肉を漬け込む。
鶏もも500gを良い感じにぶつ切りにしていく。
続いて、鶏肉の漬け込み液を用意する。
ヨーグルトをベースとし、スパイス等を入れる。
★鶏もも漬け込み用
ヨーグルト 150g
レモン果汁 大さじ1
おろしにんにく 大さじ1
おろししょうが 大さじ1
カレー粉 小さじ2
レッドペッパー(粉) 小さじ1
コリアンダー(粉) 小さじ2
塩 小さじ1
砂糖 小さじ2
今回はサボってカレー粉を使っているが、クミン・ターメリック・ガラムマサラを良い感じの量にするのがベスト。コリアンダーを補ったが、もう少しクミンを効かせても良いし、自分の好みの味を見つけるのもまた楽しい。
混ぜ混ぜして、チキンをイン。
最初からジップロックに入れても良いが、鶏もも500gの分量で作る場合は大きめのジップロックじゃないと入りきらないため留意。
どんなに時間がなかろうと1時間くらいは漬け込みたい。
今回は一晩寝かせた。前日に準備しちゃえば楽だ。
②本調理前の準備
カシューナッツ50gを水150mlに1時間くらい浸けておく。
カシューナッツの浸水は必須。柔らかくするのが大きな狙いだが、プラントベースの生活をしている人にはまた別の意味合いがあったり、まぁとりあえず浸けとこう。1時間くらいを目安とするが、例えば3時間浸けても問題は無い。
夏場は水温に注意。温度が高まると雑菌が増えるかもしれない。
野菜も切っておく。
玉ねぎ1個はみじん切りにしておき、トマト3個はさいころ状に切っておく。
最終的にどうせミキサーにかけるので、切り方は正直何でも良い。ただ、玉ねぎはなるべく細かい方が炒めやすい。
③スパイスと玉ねぎ、トマトを炒める
バター25gをフライパンで溶かし、ソース用スパイスを加える。
熱したバターにスパイスの香りを移すのが狙いだ。
ここでバターの量に気圧されてはいけない。後からもう一度同じ量を入れるのだから。
熱する間に、スパイスを用意する。
☆ソース用スパイス
シナモンスティック 1本
カルダモン 3粒
クローブ 2粒
黒胡椒 4粒
熱したバターにスパイスを入れる。バターは焦げやすいので火力に注意。
スパイスの縁に気泡が付き、カルダモンが膨らんできたら完了。スパイスを取り出す。
スパイスの香りの移った油を使って玉ねぎを炒める。
玉ねぎは水分を飛ばすように炒めていく。玉ねぎは炒めれば炒めるほど甘味が増す。ブラウンに変わるくらいまでは炒めたいが、焦がさないように気を付けたい。特にバターを使って炒めているので、油断すると焦げてしまう。
もっとブラウンにしても良いが、欲を出すと焦げてしまう。焦げると香ばしさが生まれてしまい、今回のバターチキンカレーには適さない風味が付く上、繊細なスパイスの香りが台無しになってしまう。
炒め終えた玉ねぎは一旦取り出しておく。
その後トマトを弱火で10分ほど炒めていく。
油を敷かなくても、どんどんトマトから水分が出るため焦げ付かない。
トマトを潰しながら炒めると、まるで煮込んでいるようになる。
トマトの原型が無くなってきたらカイエンペッパー小さじ1とパプリカパウダー小さじ1を入れて、水分を飛ばしながら更に5分煮込む。
フライパンの出番はここで終了。
ここまでに「鶏モモ肉のヨーグルトスパイス漬け」「水に浸けたカシューナッツ」「玉ねぎのバタースパイス炒め」「トマトのピリ辛煮込み」が完成した。後はこれらを合わせていく工程に入る。
④鶏肉を炒める
鍋にバター25gを熱し、漬け込んだ鶏肉を液ごと全て加える。
鶏肉に火が通るまで約15分ほど煮込む。
煮込み終わるあたりで、漬け込んでいたカシューナッツをミキサーにかけてペースト状にする。
煮込み終えた鶏肉にカシューナッツのペーストを入れて、馴染ませる。
更に、炒めておいた玉ねぎとトマトもミキサーに一緒にぶち込んで滑らかにする。
玉ねぎとトマトを別々にミキサーにかけても良いが、どうせ今から一緒にしてしまうので。
これらもまた鍋に合わせていく。
⑤煮込む
鶏肉、カシューナッツペースト、玉ねぎペースト、トマトペーストを混ぜ合わせたら、鍋を温める。
煮立ったら生クリーム90mlを入れて軽く混ぜて完成だ。
⑥完成
味見をし、なんとなくスパイスがぼやけていたら塩を追加する。
ここでスパイスはもう追加しないこと。初心者でよく失敗するのはスパイスがぼやけた感じがした時にスパイスを追加してしまう事だ。より辛みやエグみが付いてしまい、さらに塩味が遠のく。スパイスを引き立てるのは塩なのだ。
完成したら最後にカスリメティをひとつまみ散らす。アジアンショップにしかないと思うので無理に入手しなくて良いが、あると一気にそれっぽくなる。ちなみに今回は見つけられなかった。
あとは適当に余った生クリームを回しかけて完成だ。
ポイント
1.鶏もも肉を漬け込む
面倒でも漬け込んでくれ。頼む。
鶏肉をスパイスヨーグルト漬けにしないとインドカレーにならないといっても過言ではない。
ヘルシーな鶏むね肉よりも鶏もも肉を使う。長時間煮込むので硬くなってしまう。このカレーにヘルシーを求めるな。
2.食感を無くす
鶏肉以外はとにかくミキサーやハンドブレンダーで細かく磨り潰す。
誰かに振る舞う時も、あたかも「鶏肉以外何も入っていませんけど?」みたいな顔をしておこう。
3.材料を惜しまない
砂糖、バター、生クリーム、カシューナッツ。恐ろしいカロリーだが、これらを惜しんだものはバターチキンカレーではない。カロリーを気にするなら作るべきではない。
カシューナッツの調達も難しいかもしれないが、なんとかして生カシューナッツを入手したい。アーモンドプードルやピーナッツパウダー、ピーナッツバターでもナッツのコクは出せるが、やはりカシューナッツのコクが欲しい。
自炊としては、カロリーだけではなく価格も結構高い。
たまの贅沢として作ってみるのはいかがだろうか。
食べる
当日:ライスとワインとともに
いただきます。
ライス、白ワインとともに頂く。
バターチキンカレー自体がそんなに厳格で伝統的な物ではないので、普通にライスやワインと併せてしまう。
これこれ、このコク。
バターと生クリーム、そしてカシューナッツのコク。
しかしクドさはそこまで強くなく、どんどん食べる事が出来る。
スパイスも調和が取れており、異国を感じる。意外と奥の方に辛さがあり、ち食べ進めるとちょっと汗ばんでくる。
今回は辛みがあるカイエンペッパーを使っているため、辛さが苦手ならばレッドペッパーに変えたり量を減らしたりすると良い。
反省点として、トマトの皮が絶妙に口に残り若干気になる。皮を取り去るか、トマト缶を使うのが良いかもしれない。
それ以外は完璧だ。
翌日:ナンとともに
翌日は既製品のナンとともにいただく。
セブンイレブンで手軽にナンが買える。良い時代になったものだ。ナマステ。
こちらをオーブンで軽く温めていただく。
チャパティは焼いたことがあるが、ナンはまだ手を出せていない。そのうち焼きたいが、もちろんタンドゥールは持っていないので、作れたとしても「なんちゃってナン」となるだろう。
ナンとバターチキンカレーの相性はもう論を俟たないため、割愛する。
バターチキンカレーはとてもおいしかったが、こうなると他の色々なカレーも気になってしまう。
また気が向いたときにでも作ろうと思う。人生の暇つぶし。